研究情報・研究年報

2011年度 研究年報

2014年12月4日

Ⅰ 小児心臓外科手術に関する臨床研究

1. Fontan型手術の適応と術式、成績に関する研究
1) Fontan手術の長期成績の検討:当施設では従来自己組織を用いたFontanm 手術を優先的に施行してきたが遠隔期不整脈発生などの危惧より2002年以降、Fontan手術術式をPTFE conduitを用いた心外導管型TCPC(Extra cardiac Conduit)方式を標準とした。今回各術式ごとの遠隔期合併症回避率の検討を行い、生存率合併症および再手術率においては術後15年迄の遠隔成績に術式による差異は認められなかったが、上室性不整脈回避率はECC Fontanでは 10年 99% とその他術式88%に比して良好であった。
2) High risk Fontan症例におけるGlenn術後の肺血管拡張薬の効果
当施設では2003年以降、high risk Fontan適応症例のGlenn術後において肺血管拡張薬(シルデナフィル、ボセンタン)を積極的に投与している。そこでGlenn術後の肺血管拡張薬投与の肺血管要因へ及ぼす影響を検討した。この結果Glenn術直後PAP、Rp、PAIは薬剤使用群において術後6mおよび12mで有意な低下を認めたのに対して非使用群では有意な経時的変化は認めなかった。この結果Glenn術後において肺血管拡張薬はhigh risk Fontan症例における肺血管要因改善の可能性が示唆された。
3) ECC-Fontan術後の凝固・線溶系機能の経時的変化と抗凝固療法緩和についての検討
Extracardiac conduit型Fontan(ECC-Fontan)術後遠隔期の凝固・線溶系機能の経時的変化を評価するとともに、その経過による抗凝固療法緩和の妥当性について検討を行った。TAT、PIC値は術後3ヶ月以内では全例高値を示したが、6ヶ月以降は低下傾向を示し12ヶ月以降はほぼ正常化した。この結果より術後1年を目安にWarfarinを中止し抗血小板薬へ移行しているが、それ以降も両項目の測定値は正常範囲内で推移し、また血栓塞栓症の発生も認められていない。以上からFontan術後1年は凝固・線溶系機能ともに亢進状態にあると考えられWarfarinnによる抗凝固が適切と考えられたが、両機能が正常化してくる1年目以降はその結果により抗凝固療法を緩和するという治療方針は妥当であると思われた。

2. MDCTを用いた肺血管床の新しい定量的評価法Total pulmonary vascular volumeの確立に関する研究
我々はMDCTを用いてたTotal pulmonary vascular volume(TPVV)を考案しその臨床的意義を検討した.PVVは身長に良く相関し,Ln[TPVV]=2.7978[body length(m)]+1.2637(r=0.98),と標準化が可能であり、また全肺容積に対する比率(%TPVV)は正常群でほぼ一定であった。さらに今回,本法の妥当性を評価する為に左右短絡疾患症例のQp/Qsとの相関を検討した.この結果%TPVVとカテーテル検査上Qp/Qsは%TPVV=7.5754[Qp/Qs]+0.0728(R=0.98)の強い相関があり,肺血流が多いほど肺全体に占める肺血管の割合が高いことが示された.

Ⅱ 成人心臓外科手術に関する臨床研究

1.弁膜症
A. 増加する弁膜症再手術~より安全な手術をめざして
1-1.危険因子:高齢化社会、術後外来管理の改善により再手術の対象となる患者群が増加した。そのなかで連合弁膜症の進行による症例が約半数をしめ前回手術からの時間経過は19.6±9.5年と長期にわたっている。連合弁膜症の終末期は三尖弁逆流~右心不全から心臓悪液質となることが多く三尖弁に対する手術が必要であった。さらに肝うっ血~脾機能亢進となり血小板減少を呈する症例も半数に認め手術時の出血量との相関がみられた。腎機能障害、肝機能障害は危険因子であったが再手術回数、術中出血量、手術時間、人工心肺時間は危険因子とならなかった。
1-2.手術方法:執刀前にDCパッドを貼付し剥離時の不整脈に備える。人工心肺確立には大腿動静脈を確保し人工血管をあらかじめ縫着してから胸骨正中切開を行う。剥離時の注意点は胸骨切開時と開胸器による心裂傷、血管損傷などである。前回手術時の胸骨ワイヤーを上方に引き上げ胸骨切開を行うことで直接の心損傷は100%回避できている。また開胸器をかける部分の胸骨縁で胸膜を十分に剥離し開胸器は必要最小限の開大とし右心室前面の裂傷も防ぐことができた。人工弁摘出の際に問題となるのは生体弁の場合ステント部の癒着であり、大動脈弁では冠動脈口の損傷にとくに留意が必要で、僧帽弁では左心室後壁の損傷である。人工弁摘出後に充分な弁輪がない場合は馬心膜パッチによる弁輪形成を行い人工弁置換を施行した。三尖弁は抗血栓性に優れたOn-X弁を選択し術前の中心静脈圧が高い症例については開放位固定であるMOSAIC弁を選択することで術後右心不全の軽減に努めた。

B. 超高齢者(80歳以上)弁膜症の効果~手術適応限界年齢はあるのか
超高齢弁膜症手術の増加:高齢化社会を反映し、当科では2003年より80歳以上の弁膜症手術は全体の弁膜症手術の10%に迫ろうとしている。超高齢者を対象とした手術ではとくに術前合併症や術後QOLを考慮したより慎重な適応や術式の選択が必要である.80歳以上の弁膜症手術はこれまでのところは大動脈弁置換術を含む弁膜症手術がほとんどで90%の症例で生体弁を使用している.手術および遠隔成績は良好であり外来通院も可能、術後主要合併症は長期呼吸管理、縦隔炎などであるがほぼ満足できる結果が得られている。概ね5%程度の手術危険率であり年齢限界は重要ではなく、術前状態とJapan Scoreをもとに適応を考えればよい。

C. 高齢者の大動脈弁置換術~patient prosthesis mismatchはどこまで許されるか?                           
3-1.Patient-prosthesis mismatch(PPM)の影響:PPM頻度は概ね12%でprojectedEOAIからの予想値(8%)より多いが、高齢者では生存率には影響は認められず日本人においてはmoderatePPMは許容範囲と考えられる。現状ではseverePPMの発生は極めて稀でありPPMについて危惧する必要はない。術後のmeanPGからはPibarotらの定義ではnoPPM群でもseverePPMとなって不合理であり、PPMについては術後圧較差の許容範囲と人工弁種ごとの再考が必要である。
                                   

2.虚血性心疾患
A.心臓外科における最新の周術期管理  -ICUにおけるチーム体制の構築―
1-1.周術期管理:心臓外科領域においても高齢化に加え、糖尿病や人工透析(HD)合併例の増加がみられ、成績向上、合併症予防に各種専門性を伴った医療チームによる周術期管理がますます重要となっている。【術前】歯科による口腔内チェック、鼻腔/咽頭・皮膚培養による常在菌確認、他院からの転送例とHD症例に関しては、便・尿(バルーン留置症例)培養を追加し必要な対策を講じる。入院後HD調整と徹底的血糖管理、術当日朝までのシャワーによる術野清潔化、3日間のアミオダロン術前投与(心房細動対策)を行う。【感染対策】術中抗生剤はCEZを基本とし、術直前+術中3時間毎及び術後4日目まで投与。閉創時は、充分に洗浄行なった上モノフィラメント吸収糸を使用。毎週、感染制御部とのカンファレンスを行い、各症例の感染動向を確認。【血糖管理】術前は、経口血糖薬を中止しインスリンスケールへ変更。術後はBS180mg/dl以下を目標として持続的にインスリンを投与、経口再開と共にスケール使用に切り替え、糖尿病専門医管理に移行する。
1-2.術後ICUの管理体制:ICU20床に対し、8名のICU専属医(腎臓専門医1名、ICU専門医6名、感染制御部1名)、24時間常駐(当直帯は2名体制)。さらに、専属臨床工学技師2名(夜間は病院当直が兼務)、専属薬剤師3名、看護師55名の体制で運営。毎朝のカンファレンスで各症例の問題点、対応・治療方針を主治医と検討して決定。ICUチームの回診に加え、連日の感染制御部回診、術後早期からの理学療法士介入、人工呼吸器関連性肺炎予防のための週1回の歯科医回診を行っている。【リハビリ】手術終了時に理学療法士へ依頼、循環・呼吸状態が安定した時点で開始。ICUでも積極的に坐位、立位を行い、可能であれば車椅子帰室を行なっている。専用心臓血管リハビリ室を利用して心肺運動負荷試験を行ない、外来でのリハビリ継続につなげている。【成果】明らかな合併症発生率の減少、病棟での急変の減少が見られたが、反対にICUでの管理重点化により滞在日数はHD:3.23±1.65 、非HD:2.29±1.51と短縮化はされていない。【結語】症例の重症・複雑化に対し、多種専門分野からなる医療体制の構築と濃密な周術期管理は十分な効果をもたらしている。

3.胸部大動脈瘤
A.弓部真性大動脈瘤に対する弓部置換での脳合併症の予防 ―当院の工夫―
逆行性脳還流(RCP):当院では血管外科において弓部大動脈瘤に対するステント治療が極めて積極的に行われているが遠隔成績が不明な点もあり、比較的若い(60-70歳前半)症例、塞栓症のリスクの高いBad aortaの症例は患者のステント治療の強い希望がない限り弓部置換手術の適応としている。弓部真性瘤に対する弓部置換の際、上行大動脈の性状が造影CT・術中エコー上良好ならば上行送血、不良ならば右腋窩送血(Ax)を第一選択とするがそれだけでは脳梗塞の発生率が高く、2008年9月より、直腸温26℃で上行大動脈を遮断後、順行性に心筋保護にて心停止を得、予め逆行性心筋保護用カテーテルをSVCより頭側へ挿入し、循環停止後にSVCをocclusion、心筋保護装置ポンプにて約300ml/minでRCPを開始し、RCP下に十分なbackflowを確認して選択的順行性脳還流(SCP)用カテーテルを挿入。空気塞栓、debrisによる脳梗塞を予防しながらSCPに移行している Bad aortaに対するステント治療は不適切であるが、弓部置換もリスクが高くSCPにおける cannulationの際、十分なbackflowがある状況で行うことは脳合併症予防に重要である。当院で施行しているRCP方式の併用は安全かつ簡便で効果が十分に期待できること、操作も簡単で体外循環技師の負担も軽減できることから推奨される方法である。

4.医療経済
A.診療報酬改定後の手術入院における医療経済学的検討
1-1.胸部外科と腹部外科の比較:当院での改定前後の外科手術を胸部外科より2手術、腹部外科より4手術を選択。A:胸腔鏡下肺切,B:オフポンプCABG, C:腹腔鏡下胃切(癌), D:腹腔鏡下胃全摘(癌), E:腹腔鏡下胆摘, F:腹腔鏡下直腸切除。各術式の平成21,22年度の対比を年齢、入院日数、術後入院日数、DPC請求点数において比較検討した。A ,Fにおいて上昇がみられB,Eにおいてはほとんど変化がなく、Dは入院日数が減じDPC点数も減じていた。高導入率・成績から技術難易度の評価が落ちることが予想される中、達成した技術の再評価・術後の管理を加味した手技料の改定が望まれる。胸腔鏡下肺切は術点数増加によりDPC点数は増加し原価率は4ポイント減となったが、同内視鏡下手術で術点数増加の腹腔鏡下直腸切除は原価率13ポイント減となった。胸部の内視鏡手術ではコストを含めた医療費アップは、腹部領域と比べ明らかに見劣りする結果となった。外科手術入院費用の傾向として今回の改定は、術式点数が据え置かれたものでは保険収益の増加はなく、点数増加のあった手術ではそれを上回る保険収益増が生じておりコストベネフィット面では今回の改定は胸部手術が腹部手術より劣っていた。