お問い合わせ

心房細動

心房細動とは?

心房細動は、不整脈の一種であり、65歳以上の高齢者の5%程度は心房細動といわれています。心房細動自体は致死的な不整脈ではありませんが、治療を要する不整脈の一つです。

何らかの原因で複数の異常な電気信号が心房内を旋回している状態となり、心房は不規則でかつ充分に収縮することができず、震えているだけのような状態となります。このため心房細動にかかると心房が細かくけいれんして血液をうまく送り出せなくなってしまいます。

心房細動の原因となる異常な電気の発生場所は90%以上が肺静脈(肺から左心房へ血液を送る血管)の中に存在することが知られています。

心房細動には持続時間によって

  1. 発作性心房細動:1週間以内に自然に発作が治まる
  2. 持続性心房細動:1週間以上続くが治療すると治まる 
  3. 永続性心房細動:1年以上続いて、治療をしても治らない状態

の3つの種類があります。

心房細動の症状としては個人差があり、自覚症状が全くない方もいます。主な自覚症状としては、「動悸」、「めまい」、「胸部不快感」などが挙げられます。

心房細動の危険性

心房細動には2つのリスクがあります。

心房細動が原因による「脳梗塞」

心房細動により心房がしっかりと動かなくなるため、心房の中に血液がよどみやすくなり、心房の中で血栓が形成されます。血栓が最も生じやすいのは左心耳と呼ばれる部位です。この血栓が血流に乗って心臓の外に流れ出し、脳の血管に詰まることで脳梗塞が起きます。

心房細動が原因による「心不全」

心房細動により心臓から全身に血液を送り出す力が弱くなり、心臓のポンプとしての機能が20%程度低下します。このために心不全が起こりやすくなります。

心房細動の原因

心房細動は年齢を重ねることに発症リスクが高まるといわれています。

加齢以外の原因としては、高血圧や心筋梗塞、弁膜症(特に僧帽弁)、心筋症などの心臓に関連した病気が挙げられます。ホルモンバランスが乱れると(特に甲状腺機能亢進症)心房細動にかかりやすくなります。また、飲酒や喫煙などの生活習慣やストレスが原因になる場合もあります。心臓を含め全身に特に病気や異常がなくても心房細動になることがあり、孤発性心房細動といわれます。

心房細動の診断

心房細動の診断には心電図検査を行います。

また、動悸症状がたまに起きるという患者さんに対しては、ホルター心電図検査を行います。24時間普段と変わりない日常生活を送っていただき、記録した心電図を基に診断します。また、経胸壁心エコー検査で心臓の構造や機能に異常がないかを確認します。

心房細動の治療

心房細動の治療法は患者さんの全身状態や心臓の状態、年齢、心房細動持続期間、左心房の大きさなどを指標にして患者さんに最も適した治療方針を検討します。心房細動の治療には、「薬物治療」、「カテーテルアブレーション治療」、「外科的治療(メイズ手術)」の3種類があります。

薬物治療

「抗凝固薬」

抗凝固薬は血液を固まりにくくするお薬です。心房内に血栓ができることを防ぎ、脳梗塞の予防のために内服します。

ワルファリンという薬を内服して血が固まりにくい状態を維持します。定期的に血液検査を行い薬の効果を判定し、服薬量を調節する必要があります。最近は、プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナといった定期的な血液検査が必要ない新しい抗凝固薬もあり、患者さんの負担が軽減し、安全で効果的に脳梗塞予防が可能な時代になってきました。

「心拍数コントロール」

心房細動中は心拍数が洞調律時よりも速くなることが多く、そのために動悸などの自覚症状を感じたり、心臓が疲れて機能が低下したりする事があります。長期間心房細動が持続する場合(永続性心房細動)、自覚症状の緩和、心不全の予防を目的に心拍数を抑える薬を使うことがあります。

「調律コントロール」

抗不整脈薬を用いて、心房細動を止めて正常洞調律に戻し、規則的な心拍を維持することを目標とする治療方針です。ただし、この治療には限界があり、薬剤の投与だけでは洞調律を維持できないこともしばしばあります。

カテーテルアブレーション治療(血管内手術)

カテーテルアブレーションとは、血管の中から心臓に直径2mm程度の細い管(カテーテル)を入れて、心臓の左心房内にある心房細動を引き起こす電気の発生部位を高周波で焼灼、あるいはバルーンで冷凍焼灼して治療する方法です。体への負担が小さく、心房細動の根治を期待できる治療法です。当院では不整脈専門医(循環器内科)が担当します。

外科的治療(メイズ手術)

メイズ手術とは、心房細動の原因となる電気的な回路を遮断するとこで、洞調律を維持することを目的とした手術です。

以前は、心房壁を一旦迷路状に切開した後に再縫合する事で、電気的回路を切断して心房細動を治療していましたが、近年では心房壁を切開する代わりに高周波で焼灼、あるいは冷凍焼灼することで心房細動の原因となる電気的回路を遮断する方法がほとんどです。同時に血栓のできやすい左心耳を切除または閉鎖することで脳梗塞の予防をします。心房細動の期間が長い場合は、手術治療の効果が期待できないこともあります。

この記事の監修医師

國原 孝

主任教授國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。