虚血性心疾患とは心臓自身に血が足りない状態
「虚血」とは医学でよく用いられる言葉で、体の臓器へ十分な血液がとどいていない状態のことを指します。この虚血は体の臓器へつながっている血管が狭くなる(=狭窄する)、詰まったりする(=閉塞する)などの異常によって引き起こされます。
虚血性心疾患とは、心臓で虚血が起きている疾患、つまり心臓自身に血液が足りていない病気のこと全体を指し、心臓表面へつながっている血管(=冠動脈)の異常が原因です。
特に心臓の筋肉である心筋は全身に血液を送るために収縮と弛緩を1日に数万回と繰り返していて、沢山の酸素と栄養を必要とします。したがって、心臓の表面を流れる冠動脈に異常をきたして虚血が生じると、この心筋が正常に働かなくなり、全身へ十分な血液を送ることができなくなってしまいます。冠動脈の解剖は図のように大動脈の根本から分岐している血管で、大きくは右冠状動脈と左冠状動脈の2本があり、左冠状動脈はさらに回旋枝と左前下行枝の2本に分かれます。
虚血性心疾患の主な原因は動脈硬化
虚血性心疾患を惹き起こす冠動脈の狭窄、閉塞の主な原因は「動脈硬化」です。動脈硬化とは簡単にいうと「血管の老化」であり、年齢が進むにつれて動脈の壁が固くなり、血管の壁の中にコレステロールがたまることで血管が狭くなる状態を指します。
動脈硬化は一般的に年齢と共に進行しますが、高脂血症や高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病によって進行する速度が増します。さらに喫煙習慣は動脈硬化を加速させることがわかっています。
「狭心症」や「心筋梗塞」と呼ばれる虚血性心疾患の多くは動脈硬化の進行によって生じます。次に虚血性心疾患の症状について解説します。
虚血性心疾患の症状
虚血性心疾患の症状の代表格は胸がしめつけられるような感覚(=胸部絞扼感)です。左腕、左首やあご、肩や背中に広がる痛み(=放散痛)を伴うこともあります。虚血性心疾患の中では冠動脈が狭窄することで生じる「狭心症」では症状が一度生じても短時間で消失し、冠動脈が閉塞することで生じる「心筋梗塞」では症状が長く続くという特徴があります。
狭心症の症状
狭心症には発症する機序やタイミングなどによって以下のように細かく分類されています。
- 労作性狭心症
労作性狭心症とは階段を登る、重いものを運ぶなど身体に負荷がかかる労作をする際に胸部絞扼感や放散痛などの症状をきたし、安静にすると痛みが治る狭心症をさします。これは労作によって心臓に必要な血液の量が増え、冠動脈が狭窄している先の心筋に虚血が生じることによって起きます。
労作性狭心症とは階段を登る、重いものを運ぶなど身体に負荷がかかる労作をする際に胸部絞扼感や放散痛などの症状をきたし、安静にすると痛みが治る狭心症をさします。これは労作によって心臓に必要な血液の量が増え、冠動脈が狭窄している先の心筋に虚血が生じることによって起きます。
- 安静時狭心症(冠れんしゅく性狭心症)
安静時狭心症とは労作にかかわらず、安静している時にでも胸痛などの症状をきたす狭心症をさします。特に就寝時の夜、または明け方に発症することが多いとされています。この症状は、冠動脈にけいれんが起きて細くなる(=れんしゅくする)ことによって生じるので冠れんしゅく性狭心症とも呼ばれています。
- 不安定狭心症
不安定狭心症は狭心症の中でも、狭心痛の持続時間が長くなっている場合や、発症頻度が多くなっている場合、はじめは労作時だけだったのが安静時にも発症するようになる場合などを指します。この不安定狭心症は冠動脈の小さなプラークがこぼれ落ちて生じるといわれており、「心筋梗塞」に移行する危険性があります。
- 微小血管狭心症
労作の有無に関係がなく安静時にも症状がおきる狭心症に微小血管狭心症というものもあります。こちらは更年期前後の女性に発症することが多い狭心症で、女性ホルモンの低下により直径が100μm以下の微小な冠動脈(おおよそ髪の毛の細さ)の収縮によって虚血がおきることにより生じます。
虚血性心疾患の検査と診断
虚血性心疾患の診断においてはまず問診で胸痛がある方や心電図検査などの検査で異常がある方を疑います。虚血性心疾患が疑われた場合、さらに詳しく検査を行います。当院では以下の検査を行っております。
運動負荷心電図
患者さんに自転車をこぐなど実際に身体を動かしている状態の心電図を記録する検査です。これは実際に心臓へ負担をかけることで虚血による心電図変化が起きるかどうかを調べるので、労作性狭心症の診断として用いています。
ホルター心電図検査
先述したように、安静時狭心症など虚血性心疾患の症状がどのタイミングで発症するかわからない狭心症があります。そのような狭心症の診断には患者さんに携帯型の心電図を24時間装着していただき心電図を計測するホルター心電図検査が有用なことがあります。
経胸壁心臓超音波検査(心エコー)
体の表面から超音波を用いて体の内部にある心臓の状態を見ることができる検査です。体に負担がほとんどなく、詳細に心臓の状態を確認できる検査として虚血性心疾患の診断に有用な検査です。
心臓カテーテル検査(CAG)
心臓カテーテル検査は細い管(カテーテル)を手首あるいは太ももの付け根にある動脈血管から冠動脈まで通して、そこから造影剤を流して動画を撮影する検査です。虚血性心疾患の確定診断や治療方針決定に必要な検査です。
虚血性心疾患の治療
虚血性心疾患の治療は、「薬物治療」「カテーテル治療」「冠動脈バイパス手術」の3つがあり、当院ではその全てを実施しております。
薬物治療(保存的治療)
虚血性心疾患の治療において薬物治療が最も基本的な治療となります。動脈硬化の進行による虚血の進行を予防するために血栓の形成を防ぐ抗血小板薬、コレステロールを低下するする薬、血管を拡張させる血管拡張薬など様々な内服薬を病状にあわせて処方し虚血性心疾患の治療を行います。この薬物治療はカテーテル治療や外科的バイパス術の術前後にも必要となります。
カテーテル治療(経皮的カテーテルインターベンション:PCI)
心臓カテーテル検査と同様に細い管を手首あるいは太ももの付け根にある動脈から挿入し、冠動脈まで通します。その後、冠動脈の狭窄や閉塞している場所にワイヤーを通し、バルーンやステント(金属製コイルの筒)を拡げることで血管の内腔を拡張させ虚血を解除します。 この手技は身体への負担が少なく、手首から行った場合は治療後すぐに歩行することができます。太ももの付け根から行った場合は止血のためにしばらく安静が必要ですが、当日中には安静が解除されます。
冠動脈バイパス手術(CABG)
虚血性心疾患の治療の際にカテーテル治療のリスクが高い場合やカテーテル治療が手技的に困難である場合には冠動脈バイパス手術を行います。冠動脈バイパス手術とは冠動脈の狭窄または閉塞した場所の先の血管へ新たな血流の経路を造設する手術です。冠動脈バイパス術に用いる血管は患者さんの胸や胃、上肢にある動脈あるいは下肢の静脈を利用します。冠動脈バイパス手術のメリットはカテーテル治療よりもより確実な血流を担保できることにあります。一方で冠動脈バイパス時手術のデメリットとしては、開胸手術を行うことによりカテーテル治療と比較し術後の回復に時間を要します。冠動脈バイパス手術自体の時間は一般的に4〜6時間程度であり、冠動脈バイパス手術後は2週間程度入院してリハビリを行い退院となります。