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胸部大動脈瘤

胸部大動脈瘤とは?

心臓から拍出された血液は大動脈を通り、各臓器に血流が分配されます。この大動脈のうち、横隔膜より頭側の大動脈を胸部大動脈と呼びます。胸部大動脈は部位によって大動脈基部、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈と呼ばれます。 胸部大動脈の正常な太さは約3cmです。この大動脈の直径が拡大することや動脈の一部が拡大することがあります。このように、胸部大動脈の直径が1.5倍 (4.5cm) 以上に大きくなることを胸部大動脈瘤と呼びます。

胸部大動脈瘤の症状

大動脈瘤はレントゲンやCTで偶然指摘されることが多く、無症状であることが多いです。 拡大した大動脈瘤により周囲の組織が圧迫されて自覚症状が出る場合があります。具体的には、声帯の神経が圧迫されることで声がかすれたり食事の際にむせたりすることがあります。

胸部大動脈瘤の治療

大動脈瘤は大きくなればなるほど、大動脈イベント(大動脈破裂や大動脈解離)を起こすリスクが高くなります。無症状であっても、ひとたび破裂や解離を起こすと急に激痛が生じ、突然死の原因になることや、緊急手術が必要になることがあります。そのため、大動脈イベントを未然に防ぐために内科的、外科的治療を行う必要があります。

下記の図のごとく、瘤径が拡大するにつれイベント発生率は上昇します。特に上行大動脈では6cm、下行大動脈では7cmを超えると急峻にリスクが上昇するといわれております1)。 心血管イベント発生率は胸部大動脈の瘤径が50~60 mmで年間6.5%,60 mm以上で年間15.6%とされます2)。その他にも一部分が突出するような形態の瘤(嚢状瘤)や、家族歴、大動脈二尖弁、遺伝性大動脈疾患なども重要なリスク因子です。そのため、定期的な検査により瘤径(最大短径)や形状変化を評価する必要があります。

1)     Coady MA et.al. J Thorac Cardiovasc Surg. 1997;113(3):476-91
2)     Davies RR et.al. Ann Thorac Surg. 2002;73(1):17-27

内科治療

瘤径拡大や破裂、解離のリスクを下げるためには血圧コントロールが最も重要です。血圧を130/80mmHg 未満にコントロールすることが必要です。また、動脈硬化の進行を防ぐために禁煙や脂質異常症の管理も重要です。しかし、内科治療では大動脈瘤を縮小させることはできません。胸部大動脈瘤の破裂時期や瘤径の拡大速度を予測することは困難なため、イベント発生リスクが高い場合には、外科治療(手術)が検討されます。

外科治療(手術)

一般に大動脈基部・上行大動脈では,大動脈径≧55 mm,先天性大動脈二尖弁では≧55 mm,Marfan症候群では ≧45~50 mm,Loeys-Dietz症候群では≧40 mmで強く手術が勧められます。半年で5mm以上の拡大がある方、小柄な方や他のリスク因子のある方ではより小さい径でも手術の適応となることがあります。

手術は破裂や解離を予防するためのものですが、手術にはリスクが伴います。手術の適応は破裂のリスクと治療のリスクとの兼ね合いで決定されます。

手術法は大きく分けて二つあります。開胸人工血管置換術とステントグラフト内挿入術です。

開胸人工血管置換術

拡大した大動脈瘤を切除し、人工血管に置き換える治療法です。大動脈基部から上行大動脈にかけての大動脈瘤は開胸手術を行うのが一般的です。大動脈瘤を切除する際に、一部分の血流を遮断したり、一時的に全身の血流を停止させたりすることがあります。胸を大きく開き、人工心肺という装置を使った大きな手術となるため周術期の合併症には注意が必要ですが、大動脈瘤を切除することができれば根治的な治療となります。

ステントグラフト留置術

血管内にステントグラフト(金属のフレームと人工血管)を留置することで大動脈瘤への血流を遮断する治療法です。人工血管置換の様に大きく胸を開くことはなく、足の付け根の小さい傷で治療が可能です。合併症のリスクを軽減でき、術後の回復が早いとされています。そのため、開胸手術のリスクが高い方や高齢の方に対しては大きなメリットがあります。しかし、大動脈の形態や大動脈瘤の位置によってはステントグラフト治療が不向きなことがあります。また、治療後にも瘤内に血流が残存してしまうエンドリークというステントグラフト治療特有の問題が起こることがあり、治療後も定期的な検査が必要となります。当院ではステントグラフト治療は血管外科が担当しております。

図は腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療

ハイブリッド治療

開胸手術とステントグラフト治療を組み合わせた治療法です。大動脈瘤が上行大動脈から弓部大動脈、下行大動脈へと広範囲である場合などには、血管外科と協力し、開胸手術と血管内治療(ステントグラフト治療)を組み合わせた方法を行なっております。

大動脈瘤の位置や患者さんの状態によって、治療法を決定しております。

この記事の監修医師

國原 孝

主任教授國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。