マルファン症候群とは
結合組織は、血管、眼、骨、関節、肺、皮膚などの形と強さを保つ“体の支え”です。マルファン症候群では、主に FBN1遺伝子の変化により、結合組織をつくるたんぱく質の働きが変わります。
頻度はおよそ5,000人に1人とされ、性別や人種にかかわらず発症します。日本では「マルファン症候群/ロイス・ディーツ症候群」として指定難病に含まれます。ただし、指定難病と診断されることと、医療費助成の対象になることは同じではありません。助成には重症度などの要件があります。
高身長や長い指など、外見上の特徴がよく知られていますが、すべての特徴がそろうとは限りません。背が高くない方や、成人になるまで気づかれない方もいます。外見だけで診断したり、否定したりすることはできません。

図1 マルファン症候群でみられる主な特徴
どのような症状がありますか
症状の現れ方には大きな個人差があります。次の所見があっても、必ずマルファン症候群とは限りません。複数の情報を組み合わせて専門医が判断します。
心臓・血管
- 大動脈基部の拡大、大動脈瘤、大動脈解離
- 大動脈弁/僧帽弁閉鎖不全
- 動悸や不整脈、息切れなど心不全症状
大動脈の拡大は、多くの場合、痛みなどの自覚症状なく進みます。そのため「症状がないから大丈夫」ではなく、画像検査で大きさと変化を見守ることが重要です。
眼
- 水晶体偏位
- 強い近視、ものが二重に見える、見えにくい
- 網膜剥離、緑内障、白内障
急に視野が欠ける、光が走るように見える、黒い点が急に増える場合は、早めに眼科へご相談ください。
骨・関節
- 手足や指が長い、腕を広げた長さが身長より長い
- 漏斗胸、鳩胸、脊柱側弯
- 関節が柔らかい、または一部の関節が伸びにくい
- 扁平足、かかとの変形、股関節のくぼみが深い
- 顎が小さい、歯並びが窮屈
肺・皮膚・神経周囲
- 自然気胸
- 体重変化や妊娠だけでは説明できない皮膚の線状痕
- 鼠径ヘルニアなどのヘルニア
- 硬膜拡張による腰痛、脚の痛み・しびれなど
原因と遺伝について
マルファン症候群は、多くの場合 FBN1遺伝子の病的な変化によって起こります。遺伝形式は「常染色体顕性遺伝」です。患者さんのおよそ75%は親から受け継ぎ、約25%は両親にはない新たな遺伝子の変化によって発症します。
患者さんのお子さんが原因となる遺伝子変化を受け継ぐ確率は、妊娠ごとに50%です。ただし、受け継いだ場合の症状の種類や重さを、親の症状から正確に予測することはできません。
似た体格や大動脈病変を示す病気には、ロイス・ディーツ症候群、エーラス・ダンロス症候群、その他の遺伝性胸部大動脈疾患があります。原因遺伝子によって、注意すべき血管の場所や手術を検討する大きさが異なることがあります。必要に応じて遺伝カウンセリングと遺伝学的検査をご提案します。
検査と診断
診断には、国際的な「改訂Ghent(ゲント)基準」を用います。大動脈基部の拡大や解離、水晶体偏位、全身の特徴、家族歴、FBN1遺伝子の検査結果を組み合わせて判断します。
遺伝学的検査は診断や類似疾患との区別、家族の検査に役立ちますが、すべての方で診断に必須というわけではありません。 一方で、検査で明らかな病的変化が見つからなくても、遺伝性大動脈疾患を完全に否定できない場合があります。
主な検査

大動脈径は、年齢、身長、体格、測定部位、検査方法によって評価が変わります。小児では体格に合わせたZスコアを用い、成人でも体格や身長を考慮します。経過を正しく比較するため、可能な限り同じ方法・同じ部位で測ることが大切です。
ご家族の検査
患者さんの親、きょうだい、お子さんなどの第一度近親者には、症状がなくても心エコーなどの確認をお勧めします。ご本人に原因となる遺伝子変化が見つかった場合は、ご家族はその変化に絞って調べられることがあります。
診断後の定期検査
マルファン症候群の診療は、1回の検査で終わりではありません。大動脈の変化を早く捉えるため、生涯にわたる定期検査が必要です。
- 診断時に心エコーを行い、通常は約6か月後に再検して拡大の速さを確認します。安定していれば、その後はおおむね年1回が目安です。
- 大動脈が大きい、拡大が速い、弁逆流がある、妊娠中などの場合は、より短い間隔で検査します。
- CTまたはMRIで、心エコーでは見えにくい部分を含む大動脈全体を定期的に確認します。若い方では、可能な範囲でMRIを使い放射線被ばくを減らします。
- 大動脈基部の手術後も、残った大動脈に拡大や解離が起こることがあるため、画像検査を続けます。
- 眼科は少なくとも年1回を目安に受診し、成長期は側弯や胸郭変形も定期的に確認します。
検査間隔は年齢、大動脈径、拡大速度、家族歴、手術歴、妊娠などに応じて個別に決めます。
治療
治療の目標は、大動脈にかかる負担を減らし、拡大の進行を抑え、解離や破裂を起こす前に安全な時期を選んで治療することです。眼、骨格、肺などの症状には、それぞれの専門診療科が対応します。
薬物治療
大動脈壁にかかる力を減らすため、主に次の薬を用います。
- β遮断薬:心拍数や血圧を下げ、拍動による大動脈への負担を軽くします。
- アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB):血圧を下げ、大動脈の拡大を抑える目的で用います。
どちらか一方、または状態に応じた併用を検討し、副作用を確認しながら無理なく続けられる量に調整します。薬を飲んでいても定期検査は必要です。自己判断で中止せず、妊娠を希望する場合は事前に必ず主治医へご相談ください。ARBは胎児への影響があるため、妊娠前から薬の見直しが必要です。
生活と運動
運動をすべて避ける必要はありません。体調に合った軽度から中等度の有酸素運動は、健康維持や心身の健康に役立ちます。一方、重い物を息を止めて持ち上げる運動、高強度の筋力トレーニング、激しく競い合う競技、体が強くぶつかるスポーツは、血圧を急に上げたり眼や関節に負担をかけたりするため注意が必要です。
安全な運動の範囲は、大動脈径、弁膜症、不整脈、眼・骨格の状態、治療歴によって異なります。「してよい運動・避けたい運動」を主治医と具体的に決めましょう。日常では血圧管理、禁煙、規則正しい服薬、歯科を含む定期受診も大切です。
大動脈の手術
大動脈が危険な大きさに達する前に、拡大した大動脈基部と上行大動脈を人工血管に置き換える「予防的手術」を検討します。緊急手術になる前に計画的に行うことが、より安全な治療につながります。
国際的なガイドラインでは、大動脈基部径 50 mm以上が一般的な手術検討の目安です。ただし、次のような場合は 45 mm前後から早めの手術を検討します。
- 大動脈が速く拡大している(目安として年3 mm以上)
- 家族に若年の大動脈解離・突然死がある
- 大動脈基部から上行大動脈まで広く拡大している
- 強い大動脈弁逆流がある
- 妊娠を希望している
- 体格に対して大動脈が大きい
- 経験豊富な大動脈チームで自己弁温存手術が安全に行えると判断される
これは「50 mmまで待てば必ず安全」「45 mmなら全員が手術」という意味ではありません。大動脈径だけでなく、拡大速度、体格、家族歴、遺伝子、弁の状態、年齢、妊娠希望、ご本人の価値観、施設・術者の経験を含めて判断します。

図2 大動脈を守る治療の考え方
主な手術方法
自己弁温存大動脈基部置換術
拡大した大動脈基部を人工血管に置き換え、ご自身の大動脈弁を残す方法です。適した弁の状態で、経験のあるチームが行うことが重要です。人工弁に伴う生涯の抗凝固療法を避けられる可能性があります。一方、将来、弁逆流の進行や再手術が必要になることがあります。当院ではドイツの専門施設で豊富な経験を積んできた國原教授を中心に、マルファン症候群の方でも弁の状態さえ良ければご自身の弁を温存した手術を積極的に行っておりますので、どうぞご遠慮なくご相談ください。
大動脈基部置換術(Bentall手術)
大動脈基部と大動脈弁を、人工弁付きの人工血管に置き換えます。機械弁は耐久性に優れますが、原則として生涯にわたり抗凝固薬(ワルファリン)が必要です。生体弁は抗凝固療法の負担を減らせる場合がありますが、若い方では将来の劣化と再治療を考える必要があります。
どの術式がよいかは、弁の状態、年齢、妊娠・出産の希望、抗凝固療法、再手術の可能性などを一緒に考えて決めます。マルファン症候群の大動脈病変では開胸による人工血管置換術が基本で、ステントグラフト治療は緊急時や再手術など、限られた状況で検討されます。
大動脈解離を発症した場合
心臓に近い上行大動脈に解離が及ぶ「急性A型大動脈解離」は、緊急手術が必要です。下行大動脈が中心の「B型」でも、臓器への血流障害、破裂、拡大、治まらない痛みなどがあれば治療介入が必要になります。治療後も残った大動脈の変化を生涯にわたって確認します。
妊娠と出産を希望される方へ
多くの方が、専門チームの管理のもとで妊娠・出産を検討できます。ただし妊娠中から産後は循環血液量や血圧が変化し、大動脈解離の危険が高まるため、妊娠前の相談がとても重要です。
多くの方が、専門チームの管理のもとで妊娠・出産を検討できます。ただし妊娠中から産後は循環血液量や血圧が変化し、大動脈解離の危険が高まるため、妊娠前の相談がとても重要です。
2026年の日本循環器学会・日本産科婦人科学会のフォーカスアップデートでは、マルファン症候群について次のように示されています。
- 上行大動脈または大動脈基部が 45 mmを超える場合:妊娠を避けることを強く推奨
- 40~45 mm:一律には決めず、家族歴や拡大速度などを含めて個別に評価
- 40 mm未満:妊娠を試みることは可能だが、解離の危険がゼロになるわけではない
妊娠前に大動脈全体と心臓弁を評価し、服薬を見直します。妊娠中と産後は、循環器内科、心臓血管外科、母体・胎児を専門とする産婦人科、麻酔科、小児科などが連携して、検査間隔と分娩方法を計画します。遺伝について知りたい方には、妊娠前から遺伝カウンセリングをご案内します。
主要参考資料
1 日本循環器学会ほか 2020年改訂版 大動脈瘤 大動脈解離診療ガイドライン
2 Isselbacher EM et al 2022 ACC AHA Guideline for the Diagnosis and Management of Aortic Disease
4 日本循環器学会 日本産科婦人科学会 2026年フォーカスアップデート版 心血管疾患患者の妊娠 出産の適応と診療
5 Dietz H FBN1 Related Marfan Syndrome GeneReviews
6 難病情報センター マルファン症候群 ロイス ディーツ症候群 指定難病167
7 The Marfan Foundation Emergencies
8 The Marfan Foundation Exercise and Physical Activity
9 Loeys BL et al The revised Ghent nosology for the Marfan syndrome
医学情報確認日 2026年9月30日
