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マルファン症候群

マルファン症候群とは

マルファン症候群は非常に高度な臨床的多様性と幅広い表現型を持つ全身性の結合織疾患です。

マルファン症候群の特徴的症状は視覚器系(水晶体(レンズ)がずれる・強い近視など)、骨格系(高身長・細く長い指・背骨が曲がる・胸の変形など)、循環器系(動脈がこぶのようにふくらみ裂ける(大動脈瘤)、心臓の弁がうまく閉じない(弁膜症)、など)に現れます。そして近視はマルファン症候群の最も一般的な眼の症状であり、約60%の患者に見られる水晶体偏位は、特徴的な所見とされています。

また、およそ5,000人に1人がこの病気の遺伝子の変化をもっていると報告されています。最近、症状が必ずしもそろっていなくても同じように病気の原因となる遺伝子の変化が次々にみつかっているので、もう少し多い可能性もあります。
また、日本においては約20,000人(出生5千〜1万人あたり1人)がマルファン症候群と診断されています。

遺伝との関係

専門的な用語で、マルファン症候群は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)です。
常染色体顕性遺伝(優性遺伝)とは、父親と母親からそれぞれ受け継いだ2つの遺伝子のうち、どちらか片方に異常がある場合に発症する遺伝形式です。これは端的に述べるとマルファン症候群と診断された親からマルファン症候群のお子さんが生まれる確率は50%ということです。
ただし、患者さんのおよそ4人に1人は両親のどちらもマルファン症候群ではなく、その人から遺伝子の変化が始まっています。こうした患者さんもそのお子さんには50%の確率で遺伝します。

発症年齢

遺伝性疾患は生まれつきのものです。起きうる症状には個人差があり大人になるまで気づかないことも往々にしてあります。
若年でありながら大動脈瘤・大動脈解離を発症する疾患であることはわかっています。<.p>

マルファン症候群の症状

心臓血管の病気

マルファン症候群における合併症の発現や早期の死亡の主な原因は心血管系に関連しています。
心血管系の特徴的所見にはバルサルバ洞の高さでの大動脈拡張,動脈の断裂に対する素因、血液の逆流を伴うことがある僧帽弁逸脱症、三尖弁逸脱症、近位肺動脈の拡大などがあります。動脈の拡張は時間の経過とともに進行することが大半です。
組織学的検査では動脈中膜における弾性線維の切断や,エラスチンの欠如,無定形の基質成分の蓄積などが認められる所見です。

外見的な特徴

狭くて長い顔があり、落ち窪んだ眼球(眼球陥凹)、下方に傾く眼瞼裂、平たい頬骨(頬骨低形成)、小さくて後退した下顎(小顎,下顎後退)などを伴うことが多いです。
四肢は体幹に対して不均衡に長くなる(クモ状肢)、肋骨の過形成は胸骨を押し込んだり(漏斗胸)、押し出したりする(鳩胸)、また脊柱側彎症(背骨が曲がり左右に傾く疾患)は一般的な症状であり、軽度な場合も重度で進行性の場合もあります。

視力障害

マルファン症候群の患者は網膜剥離、緑内障、早期白内障の発症リスクが高い傾向にあります。また近視はマルファン症候群の最も一般的な眼の症状であり、約60%の患者に見られる水晶体偏位も特徴的な所見となっています。

気胸

肺では特に上葉においてブラ(破れやすい風船のような状態)が発達したり、自発性気胸に罹患し易くなったりします。

その他(妊娠)

マルファン症候群の女性で、大動脈基部(心臓と大動脈血管がつく付け根の部分)が4.0 cmを越えていると妊娠は危険であるとされています。合併症には妊娠、分娩、産褥期における動脈基部拡張の急速な進展や大動脈解離あるいは断裂があります。

マルファン症候群の原因

遺伝子の変異が原因となります。その原因遺伝子はFBN1ですが、別の遺伝子(TGFBR1,TGFBR2,SMAD3,TGFB2,TGFB3)の変化でも似た症状をおこすことが知られています。
別の遺伝子によるものはマルファン症候群として一つの病気(亜型)と考えられることがあります。症状の違いがあり、遺伝学的検査により区別して対応する必要があると考えられています。

マルファン症候群の予後

近年ではマルファン症候群の人の余命は普通の人とほぼ変わらないとされています。
マルファン症候群の病状と早期死亡の主要な病因は、循環器系に関係したものです。そのため、心血管病変に対する適切な治療によりマルファン症候群の患者の寿命は一般の人の寿命に近づくとされています。

マルファン症候群の検査と診断

家族歴がある方、そのほか大動脈の拡大や水晶体偏位などの所見がある方が疑われます。
そのため、CT検査、心臓超音波検査や眼科診察を進めることが多く、確定診断には遺伝子検査が必要です。

マルファン症候群の治療

大動脈瘤、大動脈解離に対しては、大動脈瘤あるいは解離し損傷した血管を人工血管に置き換える手術が必要となります。また弁膜症に対しては、軽傷の場合、内科的な投薬による症状緩和がメインです。
症状によっては、お薬を服用せず経過観察をすることもあります。重症の場合は、悪くなった弁を治すような外科的な手術がメインです。弁を置き換える置換術が一般的ですが、若い患者さんに対しては自身の弁を温存する弁形成術、持病があり体力が心配な方には、開胸しないカテーテル治療と、患者さんひとりひとりの状態、ライフスタイルに合わせてベストな治療法をご提案いたします。

この記事の監修医師

國原 孝

主任教授國原 孝

1991年、北海道大学 医学部卒業。2000年からはゲストドクターとして、2007年からはスタッフとして計9年間、ドイツのザールランド大学病院 胸部心臓血管外科に勤務し、臨床研修に取組む。2013年より心臓血管研究所付属病院 心臓血管外科部長、2018年より東京慈恵会医科大学附属病院 心臓外科 主任教授を経て、2022年より宇都宮記念病院 心臓外科 兼務。